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無線 LAN が目指すもの(3)

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省電力 Bluetooth ZigBee 無線LANが目指すもの 家電ネットワーク Z-Wave ANT

今回はちょっと WiFi を離れます。前回「無線 LAN が目指すもの(2)」で家電市場に挑む WiFi の姿を紹介しましたが、今回は「Bluetooth」「Zigbee」「Z-Wave」「ANT」など、同じ市場に違う方向から挑む WiFi のライバル達を紹介しようと思います。

Bluetooth

Bluetooth は携帯電話のアクセサリを無線化する技術として、1990 年代にエリクソン社が開発した技術です。登場してから 10 年ほどは鳴かず飛ばずで不遇をかこっていましたが、2005 年頃から急速な普及がはじまり、今では携帯電話の範疇を超えて PC 周辺機器にも使われるようになりました。昨今のスマートフォン・スマートパッドの流行は、Bluetooth にとって更なる追い風となっています。

Bluetooth で使われている無線技術は WiFi より二世代ほど古く、速度性能では 1~3Mbps で WiFi には遠く及びません。そのかわり小型・低価格・低消費電力については最初から設計目標に取り込まれており、これらの性能では WiFi より先行しています。

また Bluetooth では異機種間接続性が最初から重視されており、実装機能を「プロファイル」という形で標準化しています。プロファイルについては功罪相反するものがありますが(※註)、標準プロファイル機器同士をつなぐ限りは設定やデバイスドライバが不要であるという特長は、M2M ネットワークについて Bluetooth が持つ利点の一つになっています。

 

(※註)Bluetooth 対応製品は相互接続テストを通過してロゴを取得することが義務付けられており、多品種少量製品ではプロファイルを含めた認証取得に要する時間と費用が割りに合わないことがあります。

 

今後の発展性について、Bluetooth SIG は「Bluetooth 3.0+HS 」と「Bluetooth 4.0LE」という2つの全く異なる方針を打ち出しています。3.0+HS は判り易くいえば「Bluetooth over WiFi」で、Bluetooth のプロトコルやプロファイルがそっくりそのまま WiFi のパケットに包まれて送信されるというものです。従来の 3Mbps では実現できなかったビデオストリーミングなどの機能を、WiFi の高速性を活かして実現することが目論まれています。

一方の 4.0LE は一部の機能を削除した低消費電力版(Low Energy)で、ボタン電池で数年間の稼動ができるとされており、万歩計や血圧計のような健康器具、キーホルダーや腕時計のような日用品への組み込みが見込まれています。

 

 

ZigBee

ZigBee はホームオートメーションを目的として開発された無線技術で、小型・低価格・低消費電力であることを特に重視して設計されています。通信速度はカタログ値で最高 250Kbps しかありませんが、低消費電力化については Bluetooth よりも進んでおり、乾電池一本で数年間の使用に耐えると言われています。

ZigBee のユニークな特徴としては、設置運用を容易にするため「メッシュネットワーク」の考え方が取り入れられていることです。通信するノード同士が直接電波の届かない位置に設置されていても、他のノード(ルーター)が中継して通信を成立させる仕組みが取り入れられており、弱い電波でも広い範囲(特に建物内部のように入り組んだ空間)をカバーできることが考慮されています。

 

ZigBee については「IEEE802.15.4」という名前と「ZigBee」という名前が混同して使われることがあり、少し混乱を招いているようです。実はこれには明確な定義があり、「IEEE802.15.4」は電波のフォーマットとそれを送受信する機構についての規格で、「ZigBee」はその上位のプロトコルやデバイスのプロファイル、デバイス相互互換性の認定までも含めた名称になっています。従って「ZigBee」対応機器同士は相互接続して使えることが保証されていますが、「IEEE802.15.4」の機器同士はプロトコルからして異なり互換性がないこともあり得ます。

なぜ立派な相互接続認証制度が整備されているのに「ZigBee ではない IEEE802.15.4」などという紛らわしいものがあるかと言うと、ZigBee プロファイルは少々複雑で実装が面倒であり、また製品を世にリリースする時に互換性テストと認証を受けなければならないことを嫌う場合があるからです。特定の自社製品同士をつなぐため「だけ」が目的ならば、わざわざ ZigBee 仕様で作って認証を取る必要はない、という訳です。こういったフレキシブルな使い分けが出来ることは利点でもありますが、上に書いたように混乱を招きかねない欠点でもあります。

今のところ、ZigBee は当初見込まれていた普及レベルには達していません。とはいえ、家電リモコン(RF4CE) やスマート・グリッドへの普及が期待されており、今後数年間で一気に数億台の市場に膨れ上がるであろう、という強気の予想が続けられています。

 

 

Z-Wave

Z-Wave はあまり日本では知られていない無線技術です。もともとはデンマークの Zensys 社(現在は Sigma Designs 社に吸収)によって 1999 年頃に独自開発された小型省電力無線技術です。現在は Z-Wave Alliance という業界団体が設けられていますが、IEEE のような標準規格にはなっていません。

Z-Wave はメッシュ対応など ZigBee によく似た特徴を持っていますが、ZigBee 以上に家電制御に特化しています。通信速度はカタログ値最高でもわずか 40Kbps どまりで、通信周波数には一般的な 2.4GHz ではなく 800~900MHz 帯を使っています。波長の長い(周波数の低い)電波は通信速度の点では不利ですが、障害物の多い環境での伝達性には優れる特長を持ちます。ただし 2.4GHz 帯と違って国地域ごとに開放されている周波数が異なるため、Z-Wave には幾つかの異なる周波数仕様が存在します。日本では 2012 年以降開放される 920MHz 帯が割り当てられる予定ですが、2011 年現在ではまだ割り当て周波数がありません。

 

日本ではまだマイナーな Z-Wave ですが、海外とくにアメリカでは赤外線リモコンに代わる技術として普及が始まっています。デジタル TV 系のチップサプライヤーとして大きな影響力を持つ Sigma Designs 社が推進していることから、日本でも割り当て周波数が確定しだい AV 系リモコンへの普及が促進されるのではないか、と見る向きもあります。

 

 

ANT

ANT は 2005 年頃に登場した新しい無線技術で、ノルウェイの Nordic Semiconductor 社によって開発されました。同社はもともとワイヤレスヘッドフォンに用いる無線チップなどを製造しており、その知識と経験を活かして開発された次世代省電力無線技術が ANT とも言えます。ANT+ Alliance という業界団体が設立されていますが、Z-Wave 同様 IEEE のような標準規格にはなっていません。

ANT は PAN(Personal Area Network)を目的として開発されており、万歩計や血圧計のような健康器具、腕時計やキーホルダーのような日用品への組み込みが想定されています。...何処かで聞いたような話ですが、Bluetooth 4.0LE とほぼ同じ市場を狙っています。技術的にも 2.4GHz GFSK 変調、1MHz 帯域幅 x 78 チャネルという仕様は Bluetooth とよく似ています。通信速度は実力値で最大 20Kbps と言われています。

ANT が Bluetooth と異なるのは、プロトコルが非常に簡素化されている点です。Bluetooth で問題になりがちな認証得費用も大幅に安く設定されており(※註)、多品種少数製品にも対応できることを売り文句としています。

 

(※註)出典 http://www.thisisant.com/pages/ant/ant-alliance-membership-cost-comparison

 

 

まとめ

小型・省電力を特徴とする「WiFi 以外の無線技術」について代表的なものを簡単に紹介してきました。想定市場のオーバーラップする製品が意外に多いことに驚かれたかも知れません。それだけ「一般家庭向け無線ネットワーク」が注目されている巨大成長市場であり、またその攻略が容易ではないこと(簡単確実、安くて便利でなければならない)の証でもあります。

これらの技術が淘汰されて唯一無二の標準に収まるのか、それとも適材適所に合わせて住み分けることになるのか。私にはどうも、「唯一無二の標準」では収まらないような気がしています。「家庭向け無線ネットワーク」と言っても、要求される性能仕様やコスト範囲は広いからです。Bluetooth 陣営があえて「3.0+HS」と「4.0LE」の二本立てで攻めているのは、ハイ・ローミックスで広い要求範囲をカバーしようという意図があるのでしょう。WiFi は「ハイ」の方からローへ下りて来ようとしており、「ロー」の範疇では ZigBee, Z-Wave, ANT などがそれぞれ特徴ある戦略で陣地を死守しようとしているように見えます。

第三者から見れば実に興味深い混線模様ですが、これに商売を賭けなければならない身としては、それぞれの利害得失とマーケット動向を冷静に判断しなければなりません。「一般家庭向けネットワーク」という巨大市場は、そこを目指した勇者が幾多の屍を道筋に晒す、死屍累々のエルドラドでもあるからです。


 

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