Wireless・のおと

無線屋さんのおしごと(4)

ブログ

仕様だとか規格だとか堅苦しい話が続いておりますが、このシリーズも今回で一旦仕切りとします。もう少しだけお付き合いくださいませ。

前回、無線 LAN の仕様を定めている米国電気電子学会(IEEE)は製品の実装検証までやってくれるわけではなく、実装仕様の検証は販売製造元の自己責任に任されているという話をしました。しかし膨大かつ難解な無線 LAN 製品の検証を全てのメーカが自己責任で行うことには困難があり、無線 LAN の初期には「規格準拠」を自称しながら互換性のない製品が市場にあふれてしまう結果となりました。これを解決する為に組織されたのが非営利業界団体 Wi-Fi Alliance です。
 

今でこそ「Wi-Fi」(※註)は無線 LAN の代名詞となっていますが、この呼称は Wi-Fi Alliance が無線 LAN 普及のために命名したものです。当時(1999年頃)は高速化された 802.11b 規格が世に出たばかりで、市場にはまだ各社各様の独自規格無線 LAN 製品が乱立していました。後発である 802.11b 準拠製品が「その他大勢の1つ」ではなく、異種メーカ間での接続性が保証された業界標準の無線 LAN であることを強調するために「Wi-Fi」というブランドが命名されたのです。

(※註)「Wi-Fi」とも「WiFi」とも綴られますがハイフンの入った「Wi-Fi」が正式な綴りで、これは Wi-Fi Alliance の登録商標です。Wi-Fi という単語は何かの略語というわけではなく、1950 年代に高級オーディオ製品を普及させる原動力となった「Hi-Fi(High Fidelity の略、ハイファイと発音)」にあやかって命名されたようです。

Wi-Fi Alliance の成功は単にインパクトのある命名を行ったことだけではなく、製品を実際に互換性テストにかけ、互換性が実証された製品にのみ「Wi-Fi CERTIFIED」のロゴマークを付与するという「Wi-Fi 認証ロゴ制度」を確立させたことです。私自身にも 2000 年頃、「安い」という理由で無名メーカの Wi-Fi ロゴなし無線 LAN カードを買ったらつながらなかったり遅かったりと散々で、返品して差額払って一流メーカ製の Wi-Fi ロゴつき製品に買い替えたら一発で問題なくつながり「Wi-Fi ロゴって伊達じゃねぇ」と驚いた経験があります。

では、Wi-Fi ロゴつき製品ならば前回に述べた「IEEE 802.11 の仕様定義」を全て満たした製品だと言えるのでしょうか。...残念ながら、必ずしもそうとは言えないのです。Wi-Fi 認証テストが検証するのはあくまで「互換性」であり、「実装仕様が IEEE 802.11 仕様規格を厳守しているかどうか」ではありません。手元にある Wi-Fi Alliance のテスト仕様書を見ると、確かにその製品が「守っているべき」実装仕様について延々と 20 ページにわたって定義されています。しかし、テスト手順では実際にパケットをキャプチャしてそれが本当に仕様通りであるかどうかを検証しているわけではなく、Wi-Fi Alliance が選定した標準機器に対して各種の動作モード・暗号モードの設定組合わせで「実際に接続でき、使用できたかどうか」の検証にとどまっています。

とはいえ、それは Wi-Fi ロゴの持つ価値を下げるものではありません。ユーザ自身が店頭売りの機器を買ってきて接続するコンシューマ市場においては特に、規格云々よりもまず第一に「ちゃんと使えるのかどうか」が重要な評価基準となります。そこで「第三者の手によって異機種間相互接続性が検証された」ことを証明する Wi-Fi ロゴは大きな価値を持っています。
また Wi-Fi ロゴテストが「規格仕様の厳密な検証」ではなく「互換性テスト」にとどまっていることには、その方が安くつくという現実的な意味もあります。Wi-Fi Alliance は非営利団体ではありますが、非営利だからといってコストと時間のかかる検証テストをタダでやってくれる訳ではありません。一方、メーカにとっては製品開発を可能なかぎり低いコスト・短い時間で実施したい事情がありますから、製品一品種ごとに何百万円もかかるような膨大で厳密なテストはやりたくないのが本音です。Wi-Fi ロゴテストはそういう意味においても、現実的な妥協点を示していると私は思います。

しかし、と考える方もおられるかもしれません。本当に製品実装仕様の厳密な検証が必要な場合、IEEE や Wi-Fi Alliance がやってくれないならば、一体誰がそれをやってくれるのだろう?と。もうここまで読めばお判りかも知れませんね。「そういうこと」をやっている企業の一社が、他らならぬ我々サイレックス・テクノロジーなのです。

と弊社の紹介をしたところで、やっとマーケティング部門への義理を果たせました(笑)。次回からはもう少し軽い話をしようと思います。


 

組込み無線LANモジュール製品ページ

関連記事

製品のご購入・サービスカスタマイズ・資料請求など
お気軽にお問い合わせください