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5G携帯のはなし(2)

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規格 技術解説 5G携帯

前回は1Gから5Gまで、携帯電話の歴史についてざっと振り返ってみました。今回は5Gの技術解説ですが、その前に4G-LTEを解説したあと5Gで何が変わったかについて解説します。

5Gのセールスポイント

5G携帯については色んなプロモーションや解説が飛び交っていますが、主なセールスポイントは次の3つです。

 

  • 超高速(eMBB) : 目標20Gbps
  • 超高信頼性(uRLLC) : 信頼度99.999%、通信遅延1msec未満
  • 超多台数接続(mMTC) : 1Km平方あたり100万台

 

(※註1) eMBBとかuRLLCとかの略語については巻末にまとめて示します。

 

真っ先に注意しておきたいのは、この3つは決して同時には実現しないということです。eMBBは1msec未満の遅延なんて保証しませんし、百万台同時接続で20Gbpsを保証する回線容量なんてありません。uRLLCは比較的低速・少台数に対して提供されるサービスで、mMTCは低速・多台数に対する接続サービスです。「百万台が20Gbpsの速度で接続し99.999%の信頼度と1msec未満の遅延で動作することを保証する」ものではありません

eMBB, mMTC, uRLLCの相補性

eMBB, mMTC, uRLLCの相補性

それにしても、5Gで使われている基本技術は4G-LTEと同じOFDMAなのに、どうして急に「超高信頼性」や「超短遅延」が実現できる目処を立てたのでしょうか。それについて解説するには、まずは現行の4G-LTEの原理から始める必要があります。

4G-LTEの通信原理

G-LTEや5Gが使う変調搬送方式OFDMの基本原理はWi-Fiと同じですが、通信手順はWi-Fiとは全く異なります。Wi-Fiが可変長のフレームを任意のタイミング(※註2)で送受信するのに対し、携帯無線は固定長の小さなフレームを基本単位として、基地局の厳密な時間スケジュールに同期して送受信が行われます。

(※註2) Wi-FiにもAPが中枢となって通信タイミングを管制するPCFやHCFなどのモードがありますが、全ての通信がAP管制で行われるわけではなく、QoSで予約された帯域外ではステーション間で通信権を争って決めるDCF/EDCAが使われます。

 

時間軸で見ると、4G-LTEの基本通信単位は10ミリ秒の「フレーム」で、これが1ミリ秒長の「サブフレーム」に分割され、サブフレームは更に0.5ミリ秒の「スロット」に、そしてスロットは7つの「シンボル」単位に分割されます。4G-LTEのシンボル周期(SCS)は15KHz固定で、各シンボルの間にはサイクリック・プレフィクス(CP)が挿入されます。

4G-LTEのフレーム構造(時間軸表記)

4G-LTEのフレーム構造(時間軸表記)

4G-LTEでは1スロット=7シンボル×12本(180KHz)のサブキャリアをリソースブロック(RB)と定義しており、RBが通信の基本単位になります。Wi-FiではAPの検索や接続・送信前の確認(RTS/CTS)・受信通知(ACK/BlockACK)などの制御情報はデータフレームとは別の制御フレームとして扱われますが、4G-LTEでは通信制御もデータ送受信もRBに割り当てられます(※註3)。1シンボルが何ビットに相当するかは変調モードによって異なりますが、制御フレームではQPSK変調が使われるので2bit/シンボルになり、RBあたり2x7x12=168ビットの情報を含むことになります。

 

(※註3) 厳密に言えば制御フレームではRBが縦(サブキャリア)・横(シンボル)に分解されて複数の機能が相乗りするのですが、割愛します。

4G-LTEのリソースブロック(時間-周波数軸表記)

4G-LTEのリソースブロック(時間-周波数軸表記)

1スロット時間(0.5ミリ秒)に幾つのRBを含められるかは通信帯域によって異なり、

帯域幅 RB/スロット
1.4MHz 6
3MHz 15
5MHz 25
15MHz 75
20MHz 100

となっています。例えば15MHz帯域の場合、10ミリ秒のフレーム=20スロットには75×20=1500個のRBを収容することができます。

4G-LTEの通信仕様解説では、縦軸をサブキャリア・横軸を時間としたマッピング(リソースグリッド)として、どのRBにどの機能が入るかを示すことが行われます。思いっきり簡略化した概念では下図のようになります。

4G-LTEのリソースブロックマッピング例

4G-LTEのリソースブロックマッピング例

「RBの機能」にはPDCCH, PBCH, PDSCHなどの略語が与えられており、それぞれに基地局側・子機側で発信すべき情報・受信解釈すべき情報が定められています。制御フレームの種類も本当はもっと沢山ありますし、1フレームぶんのリソースグリッドは72x140とかのマトリクスになり、全部を描こうとすると大変なことになります。

とりあえず、4G-LTEで最も大きな流量を占める基地局→端末のダウンリンクデータ枠の名前はPDSCHで、リソースグリッドの中では「空白地帯」として示されており、通信が発生するとデータはRB単位に分割されPDSCH枠の空き部分に「はめ込まれて」配信される格好になります。

制御情報が入るリソースブロックは時間軸・周波数軸の両方で予約されているので、何百人ものユーザーが一斉に動画をダウンロードしてデータ帯域≒PDSCH枠がパンクするような事態になっても、基地局~端末間の接続は切れない(はず)という仕組みになっています。

5Gの改良点

 

5Gの通信方式も「フレーム」「サブフレーム」「スロット」「シンボル」の概念は4G-LTEのものを継承しており、1フレーム=10ミリ秒・1サブフレーム1ミリ秒という時間解像度までは4G-LTEと同じです。

違うのはここからで、5Gでは1スロットを「0.5ミリ秒」ではなく「14シンボル」として定義しています。4G-LTEでは15KHz固定だったシンボル周期は、5Gでは15KHz x 2^μ(※註3)の可変長になっており、シンボル周期が短くなればサブフレーム1ミリ秒に収容可能なスロット数も変わります。シンボル周期とスロット数の関係は次のようになります。

μ シンボル周期 サブフレーム1ミリ秒中のスロット数
0 15KHz 1
1 30KHz 2
2 60KHz 4
3 120KHz 8
4 240KHz 16

(※註3)μは英文解説では"Numerology"とも書かれます。Numerologyとは「数秘術」で、魔法陣とかカバラの秘法とかで使われる言葉です。

サブキャリアの占有周波数帯域はシンボル周期の逆数に比例しますから、μを大きく設定する=シンボル周期を短くするほど、同じ帯域幅に収容可能なサブキャリア数は減ります。しかし4G-LTEでは最大帯域幅20MHzだったのに対し、5Gでは新たに割り当てられた周波数でより広い帯域(最大400MHz)が使えます。むしろ5G規格でシンボル間隔が可変になったのは、広い帯域を有効活用するための仕様拡張とも理解できます。

 

下り(基地局→端末)と上り(端末→基地局)データの共存方式については、4G-LTEでも5Gでも周波数分割方式(FDD)時分割方式(TDD)が混在しています。おおむね2GHz未満の周波数帯ではFDD方式、2GHz以上の周波数帯ではTDD方式が使われます。

4G-LTEのTDDでは送受信の切り替えは1ミリ秒のサブフレーム単位で、10ミリ秒のフレーム中での下り(D)・上り(U)の組み合わせは全7種類が規定されています。"S"のスペシャル・サブフレームにはU/D切り替えのタイミングパラメータ等が格納されています。

4G-LTEのTDDフォーマット

4G-LTEのTDDフォーマット

これに対し、5Gにおける時分割はスロット中のシンボル単位まで細分化されています。5Gではスロット内の各シンボルを下り(D)・上り(U)に割り当てて使うことができ、1スロット=14シンボルをどういう組み合わせで使うかが規定されています。組み合わせは8bit=全256通りが指定可能で、現仕様では56種類が定義されています。全部示すと大変なので、とりあえず最初の12種類を例示しておきます。"U"と"D"は方向が固定されていますが、"F"は「フレキシブル」の意味で、基地局側の判断で上りまたは下りを割り当てることができます(基本的にDを「後ろへ引っ張る」か、Uを「手前に伸ばす」格好で割り当てます)。ここで示したパターンにはD-F-Uの並びになっていますが、後半になってくるとD-F-U-DやD-F-U-D-F-Uのように、スロット中に2度も3度も送受信が入れ替わるパターンも定義されています。

5GのTDDフォーマット

5GのTDDフォーマット

つまり5Gの特徴の1つは「4G-LTEよりも(μを大きくすることで)スロット時間を短くすることができる」「スロット中のシンボル単位に送受信を混ぜることができる」ことです。更に5Gには「ミニ・スロット」という仕様があり、1スロット=14シンボルの一部に(2,4または7シンボル)別のデータを割り込ませることもできます。uRLLCの「短遅延」はこれらの特徴を利用して実装されています。もう一方の「高信頼性」については、uRLLC用の通信スロットを予め予約しておく(eMBB帯域がPDSCHスロットへの動的割り当てなのに対して)ことや、時間軸・周波数軸上で多重化送信することによって実現しています。

 

「超多台数接続」のmMTCはuRLLCと重複するところも多いのですが、大きな違いは「低消費電力・低価格」という要求があることです。このためmMTCでは割り当て帯域サブキャリアの一部だけを使って通信し、それに伴う通信遅延の発生を甘受した格好になっています。

5GにおけるeMBB,uRLLC,mMTCの周波数・時間の割当配分をざっくり示すと下図のようになります。uRLLCは広い周波数帯域×短い時間(1スロット未満)を利用、mMTCは狭い周波数帯域(極端な場合はサブキャリア1本)×長い時間を利用し、空いたスペースはオンデマンドでeMBBに割り当てられるかたちになります。

5Gのリソース割り当て例(時間-周波数軸表記)

5Gのリソース割り当て例(時間-周波数軸表記)

まとめ

ものすごく大雑把に4G-LTEと5Gの通信原理を紹介してみました。パケットフレームをもって通信単位とするWi-Fiとは全く原理が異なること、5GではOFDMの特徴を骨までしゃぶるような周波数軸・時間軸の利用が目論まれていること、シンボル間隔の可変設定やシンボル単位での送受信の混在や、RLLC/mMTCでの帯域予約などざっと見ただけでも多くの設定オプションがあることが伝われば幸いです。もちろんここで紹介した機能はほんの一部に過ぎず、実際には電話帳みたいな厚さの仕様書にてんこ盛りのオプションが用意されています。

これらのオプションをどう組み合わせれば目的とするサービス品質が実現できるのか、その能力を最大限に引き出す基地局側の構成はどうするべきか、機材や環境の変化にどうやって対応してゆくのかというのは5Gの大きな課題で、その枠組はざっくりRAN(Radio Access Network)という言葉で語られることが多いです。RANには相互接続性が求められるので標準規格にすることが望ましいのですが、例によって例のごとくOpenRAM,xRAN,Open VRANなど紛らわしい名前の団体が複数設立されて標準規格の座を争っています。

次回はRANも含めて、通信システムとしての5Gについて書いてみようと思います。

 

今回登場した略語一覧

PCF: Point Coordination Function
HCF: Hybrid Coordination Function
DCF: Distributed Coordination Function
EDCA: Enhanced Distributed Channel Access
QoS: Quality of Service
eMBB: Enhanced mobile broadband
uRLLC: Ultra-reliable low-latency communication
mMTC: Massive machine-type communications
RB: Resource Block
SCS: Sub Carrier Spacings
RAN: Radio Access Network

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