ロケットからリアルタイム映像伝送に挑む

長距離無線通信 IEEE 802.11ah Wi-Fi HaLow 組込み
ロケットからリアルタイム映像伝送に挑む

東京科学大学(旧・東京工業大学)の技術系公認サークル CREATE

東京科学大学(旧・東京工業大学)の技術系公認ロケットサークル「CREATE」は、「モノ作りを楽しく学ぶ」を理念に活動しています。CREATEは、宇宙関連技術やロケット設計の経験を通して、次世代エンジニアの育成を目指し、2008年の創設以来、数々の成功事例を持っています。今回、彼らが開発する「C-73J」ロケットでは、前例のない挑戦に取り組んでいます。それは、ロケットから地上へリアルタイムで映像を伝送するというミッションです。この課題に取り組むにあたり、従来の無線通信手法では難しかった長距離での映像伝送に対する課題を解決するため、サイレックスが提供する最新の無線規格 802.11ah(Wi-Fi HaLow™) を採用しました。

本事例では、ロケット開発プロジェクトの開発背景や過程、学生たちが802.11ah規格に抱く期待について紹介します。

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ロケットのミッションを支える「Wi-Fi HaLow

CREATEが挑戦するC-73Jプロジェクトは、2023年11月に8名の学生チームでスタートし、約10か月の開発期間をかけて進行中です。このプロジェクトの中心的なミッションは、ロケットからのリアルタイム映像伝送です。これまでは2.4GHz帯のWi-Fi通信が主流で、距離や障害物の影響を受けやすく、リアルタイムでの長距離映像伝送は技術的に難しいとされてきました。
飛行中のロケットから映像伝送することで、飛行中の機体の状態をリアルタイムで地上から観察することが可能になることが期待できます。

そんな中、CREATEのメンバーは2023年、インターネット上で見つけた802.11ah規格に注目しました。802.11ahは920MHz帯を使用し、1MHzの帯域幅で最大3Mbpsの通信速度を実現できるため、映像伝送に必要な性能を十分に満たす可能性があったのです。また、免許が不要であり、Wi-Fiの既存のソフトウェアスタックをそのまま利用できる点が、開発コストと時間を大幅に削減できるメリットとしても評価しました。

ロケットに802.11ahを実装するハード担当

開発の課題と解決策

開発の流れとしては、まずサイレックスのSX-NEWAH評価用ボードおよびRaspberry Pi 4を用いて実際に映像の長距離伝送が可能かどうか検証しました。多摩川河川敷にて映像伝送の試験を行い、打ち上げに十分な距離においても映像が送られることが確認できました。

その後、機体搭載用の基板を作成しました。機体サイズの制約により、Raspberry Pi 4及び評価ボードを直接搭載することが難しいため、Raspberry Pi 4より小さいサイズのRaspberry Pi Zero 2 Wを使用し、コンパクトかつ省電力な通信システムを目指しました。無線LANモジュール「SX-NEWAH」の表面実装にも挑戦しました。チームはYouTubeなどのオンラインリソースを駆使しながら学習し、初めて基板の表面実装に成功しました。ロケット内部の限られたスペースに、通信、センサー&パラシュート制御、電源関連の3つの基板を巧みに配置し、狭い環境下でもシステムが正常に動作するよう設計しました。

しかし、開発中にはさまざまな課題が生じました。まず、Raspberry Pi ZERO 2 Wに関する技術情報が少なく、ハードウェアの選定やシステム設計に時間を要しました。さらに、日本国内では802.11ah規格がまだ認可されたばかりで、技術的な情報や実例が少ないことから、チームには大きな不安がありました。

そんな中、サイレックスのエンジニアとの打合せや、彼らから提供された技術資料が非常に役立ちました。Wi-Fi HaLowに関するデータシートや、サイレックスが提供するOSイメージを使用することで、開発作業がスムーズに進むようになりました。基板作成後にソフトウェアの移植を行い、Raspberry Pi Zero 2 Wの演算性能でも十分映像伝送を行えることを確認できました。さらに、映像伝送部分でも、より小さなサイズでスムーズな映像を通信できるよう、GStreamerを使うなど、多くの試行錯誤、それによるノウハウが活きた構成となっています。

<ミッション成功の基準>

C-73Jプロジェクトでは、以下の3つの成功基準を設定しています。

① 30fpsで動画をリアルタイムで無線伝送できること
② 映像の遅延が1秒以内であること
③ 映像だけでなく、カメラジンバル制御の角度の誤差を最小限に抑えること

これらの条件をクリアすれば、C-73Jのミッションは大成功となります。

限られたスペースに通信、センサー、電源を集約

802.11ahの今後の展望

802.11ahを採用することで、C-73Jロケットからのリアルタイム映像伝送が可能になりました。将来的には姿勢情報や他のセンサーデータを同時に伝送することも視野に入れています。

この技術は、ロケット開発以外にも幅広い応用が期待されています。例えば、CREATEメンバーの一人は、物流業界でのアルバイト経験から、802.11ahが自動倉庫や無人搬送車(AGV)、自動搬送ロボット(AMR)といった産業分野での活用に大きな可能性を感じています。物流業界では、手作業が主流であり、作業効率を高めるための自動化が求められています。ここで、長距離無線通信が求められる場面が増えており、802.11ahはそのニーズに応える技術として期待していると話してくれました。

C-73Jの打ち上げは2025年3月を予定しており、成功すれば、次世代の無線通信技術として802.11ahの価値が証明されるでしょう。また、CREATEの挑戦は、産業や物流の現場でも広く応用される可能性がある技術を開拓するものであり、今後の展開に大きな期待が寄せられています。

打ち上げの結果は、サイレックスのウェブサイトで公開します。お楽しみに!

プロジェクトメンバー

 

写真左から:
渡邊 創太さん:映像伝送、ジンバル制御担当
加藤 大地さん:エンジン系、映像伝送担当
中川 亮汰さん:プロジェクトリーダー
蒲生 海珠さん:映像伝送、電源周辺担当
畑 雄一朗さん:構造系、機体制作担当

採用関連製品

参考資料・ウェブサイト

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