会議室を移動すると無線がつながりにくい?
スティッキー端末が引き起こす通信トラブルの正体と対策
この会議室にいる時だけ無線が繋がりにくい...。さっきまでサクサク動いていたのに、会議室を移動するとWebページが表示できない...。
それ、もしかすると”スティッキー端末”が原因かもしれません。
スティッキー端末とは
“スティッキー(Sticky)” とは英語で ”くっついて離れない” という意味です。無線端末 は通常アクセスポイント (以下AP) に接続して通信を実施します。無線端末が移動した場合は、より好条件のAPにローミングして通信を継続しますが、このローミングがうまく実施されず、元々接続しているAPから ”くっついて離れない” 現象が起きる場合があります。この時の無線端末をスティッキー端末と言います。
ローミングとは
無線LANにおけるローミングとは、複数のAPが存在する環境で、無線端末がAP間を移動する現象を指します。
無線端末とAPの距離が離れると、お互いの接続が弱くなります。接続が弱くなると、通信速度や通信品質が低下します。そのため、安定した無線通信を行うために、ローミングは非常に重要な機能となりますが、スティッキー端末においてはこのローミングがうまく働かず、古い接続先にしがみついてしまうのです。
実例: 会議室の移動
たとえば、オフィス内で会議室1から会議室2に移動したときを考えます。
会議室2に移動したあとも無線端末は会議室1のAPに繋がったままで、会議室2のAPに切り替えようとしない場合があります。これがスティッキー端末の典型的な挙動です。
スティッキー端末が引き起こす問題
まずは、スティッキー端末が自身に及ぼす影響についてです。弱い接続を維持し続けることで、端末の通信速度は低下します。また、接続が弱いため、データのやり取りの失敗が増え、再送が多発し、通信の効率が悪化します。具体的には、動画の読み込みが遅くなったり、ファイルのダウンロードやWebページを開くのに時間がかかったりします。
スティッキー端末だけが影響を受けるのであればまだ影響は小さいですが、その影響はネットワーク全体に及ぶ場合があります。再送が多発することにより通信に使用する無線帯域を圧迫してしまうのです。その結果、他の無線端末とAPの通信に利用できる帯域が狭まり、速度の低下など通信品質の悪化を引き起こします。
なぜスティッキー端末になってしまうのか
一般的に無線端末は “接続が切れる” まで接続し続けようとします。上で説明したローミングの判断基準が保守的で、極端にAPと距離が離れない限り切り替えないのです。可能な限り接続を続けようとする動き、それが逆に無線通信の品質低下を招いてしまいます。
スティッキー端末の対策は?
スティッキー端末の問題は、端末側の設定や使い方である程度改善できます。以下の方法を試してみましょう。
Wi-Fiのオン・オフを切り替える
一時的に接続をリセットすることで、より良いAPに再接続されることがあります。
OSやドライバを最新に保つ
ローミング性能はソフトウェアに依存するため、アップデートで改善されることがあります。
Wi-Fiアシスト機能を活用する
iOSやAndroidには、電波が弱いときに自動でモバイル通信に切り替える機能があります。
手動で接続先を選ぶ
SSIDが複数ある場合は、電波の強いものを選び直すのも一つの手です。
上記はスマホやタブレットなどのモバイル機器を想定しています。サイレックスのワイヤレスブリッジ製品では、接続先の選択だけでなく、ローミングの閾値を設定できるため、利用環境に合わせた運用が可能です。
また、無線インフラ側でできる対策もあります。
APの配置を最適化する
電波が重なりすぎないように配置し、ローミングしやすい環境を整えます。
電波出力の調整
設置されているそれぞれのAPがカバーする範囲を調整することで、ローミングを促します。
これらの対応に加え、サイレックスのアクセスポイント製品では、AP側から明示的に子機を切断する機能 (無線ステーション受信強度監視設定) が搭載されています。これはAP側が自身につながっている子機の受信強度を監視し、設定された閾値を下回る場合にAP側から子機を切断する機能です。これにより通常無線端末側が判断して実施されるローミングですが、APから無線端末を切断することで、無線端末が最適なAPに繋がるよう促すことが可能となります。
まとめ
スティッキー端末は、ユーザにとっては「なんとなく遅い」「つながりにくい」と感じる原因の一つです。しかし、端末側・インフラ側の両方で対策を講じることで、通信品質を大きく改善することができます。もしあなたのネット環境に心当たりがあるなら、ぜひ今回紹介した対処法を試してみてください。
ライタープロフィール
真木 雄大
インフラ・コネクティビティ製品の企画を担当しています。
日々進化する通信技術を、現場のリアルな課題解決にどう活かすかを意識しながら、製品を企画しています。
変化を前向きに捉え、挑戦を楽しむ姿勢を忘れずに、日々の業務に取り組んでいます!
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