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Embedded Systems Conference 2012を見て

2012年4月26日 10:30
YS
先日、アメリカのサンノゼで開催された Embedded Systems Conference 2012 を視察してきましたが、今年はセンサーネットワークが大流行で、どこのブースにも「超低消費電力」そして「無線接続」をうたう製品(チップセット、SoC、EVK など)が並んでいたことが印象的でした。予告どおり(?)、今回は雑感に近い話を軽く流してみます。

CPU アーキテクチャとしては Texsas Instruments, Freescale Semiconductor, NXP Semiconductor, ST Microelectronics などが一斉に Cortex-M 系列の省電力 SoC を並べており、SH/R8C/RX/RL78 の混成アーキテクチャを抱える Renesus Electronics 社と、PIC シリーズを持つ Microchip の二社が Cortex 軍団に立ち向かっている構図となっていました。ところで Cortex を「コアテックス」と発音する人が多いのですが、core-tex ではなく「前頭葉」という意味の単語で「コーテックス」という表記のほうが原語発音に近いと思うのですが...。

それはともかく、「低消費電力」というのは今後十年間のコンピュータ産業を占う上で一つのキーワードとなるでしょう。今までは「とにかく速く」「とにかく大容量」であることがコンピュータの価値で、3GHz のクアッドコア CPU に 16GByte の DDR-3 と 4TByte の RAID アレイをつなげ、128 コアの GPU を水冷でぶん回してオーバークロック動作させ Futuremark で何 FPS 出した、みたいな話がコンピュータ産業の「最前線」を象徴する話題になっていましたが、今後は電力を野放図に消費して速度を追及するのではなく、電力をいかに効率よく使って優れた性能電力比を実現するかがコンピュータの価値になるのではないでしょうか。

一方、「低消費電力」と「無線接続」は実は相反するテーマです。「無線 LAN と通信距離について(1)」でも述べたように、自由空間を伝搬する電波は距離の二乗に逆比例してその強度を落としてゆくので、同じ距離を通信するならば有線接続のほうが遥かに伝達効率が良いのです。しかしながら、「低消費電力」と「無線接続」は不可分のテーマでもあります。ありとあらゆる物にコンピュータが埋め込まれてゆく M2M (Machine-to-machine)の世界において、その全てが有線接続されることはおよそ非現実的だからです。この相克をどのようにして回避し、どのような技術的要件として落とし込むかが勝者と敗者を分けることになるでしょう。

今まで何度か述べてきたように、こういった低消費電力無線には沢山の(10種類ちかい)自称「次世代標準」候補が名乗りを上げています。今回の Embedded Systems Conference 2012 では、各 SoC メーカー毎に無線技術への取り組み方が現れていたと思います。
Bluetooth の展示はごく少なく、Zigbee (802.15.4)派と WiFi 派に大きく分かれていました。Zigbee 派の筆頭は PIC-Tail を持つ PIC 社で(ただし同社は Zero-G wireless を買収した自社 WiFi 技術も持っている)、Renesus・NXP もどちらかと言うと Zigbee 寄りの展示でした。一方 Texsas Instruments 社は新開発の「TIWI」こと CC3000 WiFi チップを前面に打ち出しており、ST Micro も Zigbee よりは WiFi を押しだした印象。Freescale 社は自社製の無線ソリューションを持っていないためパートナー企業による WiFi 講習会を開いており、我々 silex も Freescale ブースで「省電力無線」に関する講習を行いました(講師は私ではありません、あしからず)。

現段階では、まだ誰が勝者で誰が敗者かを見極められるほどの材料はありません。家電(PC)系、工業系、携帯系それぞれに WiFi、Zigbee、Bluetoothが一日の長を持っており、互いに自らの得意分野を守りつつ他分野への浸透を図っているという状況です。そのなかでも「スマートフォンへの搭載率ほぼ100%」という WiFi が多方面への進出力では頭ひとつ抜きんでており、一方携帯電話業界への普及率が高いはずの Bluetooth は、その特徴であるプロファイルとロゴ認証制度が逆に足枷となって「携帯電話とヘッドフォン」以外の用途に進出できていない印象を持っています。

こういうとき、技術者はついつい「従来の常識を破る」エキゾチックな新技術(純インパルスUWBとか、60GHzやテラヘルツの高周波無線だとか、ホワイトスペース帯域を使うサブギガヘルツ無線だとか)に飛びつきたくなるものですが、市場は得てして平平凡凡で「面白くも何ともない」ソリューションを選択するものですね。そう考えると低消費電力 WiFi という「平凡な」ソリューションに勝機があるのかなぁ、とも思いますが...こればっかりは、ノストラダムスでもお釈迦様でもわかりません。

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